うちの庭には、「山ぼうし」があります。
美術館を設計してくださったハンマウム建築工房の主宰、冨井正憲、吉田福次、両氏によって、開館時に植えられたものです。
「山ぼうし」は高山植物で箱根には多く自生している木でもあります。
当館は箱根生まれの写真家が設立したこともあり、箱根の土地に根付く木を選んで下さいました。
「春には白い花が咲き、秋には紅葉する」木だとのこと。
「来年には花もつくだろう」とのことでした。
1年目。
秋を迎える頃、葉がだんだん色付いて赤く染まり、少し早めの秋の終わりに葉を落としました。
2年目。
4月がきても芽が出て来ません。良く見るとまだ固い芽があります。
5月になり、新緑が美しくなりました。
ところがいつまで待っても花らしいものは見当たりません。
芽吹くのも遅かったからか、と夏頃まで花が咲くかしら?と期待をしていました。
しかし、秋になり、葉は色付くかと思いきやそのまま散り始め、紅葉にならぬまま、冬の前に葉を落としてしまったのです。
それとなく詳しそうな人に相談したこともありました。
ある人は「これは山ぼうしではなくて、花みずきじゃないの?」なんておっしゃる方もいました。
花みずきは箱根では寒過ぎて冬を越せなかったのでは、というのです。
確かに幹の感じ、葉の形も似ています。
でもそんなはずはない。だって、この素晴らしい建築を作ってくれた方が、しっかりコンセプトを持った上で選んで植えてくれたのだから、間違うはずはない。
この地に合わなかったのでは?夏に水やりが少なかったのかしら?
自然に育つと思って、肥料をあまりあげなかったからかしら?
それとも梅雨の湿気で根が腐ってしまったのかしら?
このまま枯れてしまったら……。
3年目。
春がきました。山ぼうしは新緑が美しくなりました。
幹も増え、葉も増え、やっぱり順調に元気に育っている、と確信しました。
きっと、まだ植えたばかりだったから、2年経たないと馴染まないんだな、と思いました。
春がすぎ、梅雨に入りました。花は咲きません。一体どんな花がさくのだろうか。
もしかして、すごく小さくて見えないのでは?
花を付けぬまま、夏。緑は元気一杯です。
枯れることはなさそうだな〜と安心しつつ、花は結局見当たらないまま、秋。
また少し色付いただけで、葉を落としてしまいました。
紅葉もしないのは、どうしてだろう。
植えた年には確か、もう少し色付いたと思うのだけど、記憶違いかしら?
紅葉しない木なんでは?と記憶も曖昧になってきました。
もしかしてやっぱり、山ぼうしではないのだろうか。
他人の言うことなんて気にせずに、自分の信じる人を信じたい。
美術館と一緒に植えられた木がずっとここにいてほしい。
葉の落ちてしまった幹だけの山ぼうしを眺めながら、少しの不安と、どこかで囁く疑念とが、頭から離れません。
そして今年、お庭を改造しようとメールで相談をさせていただいていた、奈良の一級造園施工管理技士でガーデンテック・オオカワの代表、大川宏氏が奈良から来てくれることになりました。
そのときに、山ぼうしのこともお話しました。花みずき容疑についても。
大川氏はまず匂いをかぎ、まだ芽だけの木や幹を見て、「山ぼうしだね」と言いました。
葉の形は丸いか、先がツンと出てるかと聞かれ、記憶を蘇らせ、後者だと答えると
「山ぼうしの葉は先が尖り、花みずきは丸いのだ」という。
「やった〜!!」と心の中でガッツポーズ。
疑念が晴れ、それだけでも十分でした。
しかも、まだ葉の出てこない固い新芽を見て、こういったのです。
「花芽でてるじゃない」と。
そして見分け方を教えてくれ、確かに2種類の芽があることが分ります。
山ぼうしの花は少しグリーンがかっており、分りづらいのだそう。
「もしかして、去年の咲いたんじゃないかな?いっぱい花芽あるよ」
え〜…そんなはずないんだけど。。。
5月になり、新緑で溢れ、葉の上に確かに葉とは形の違うものがでてきました。
これが花。
ちゃ〜んと花も付けていたのに、私達が気付かなかっただけで、山ぼうしは私達や色々な人になんやかんやと言われ続けていたのか。
なんだか、嬉しいやら可哀想やら。
色は黄緑で確かに良く見ないと分りづらいようです。
でも、いくらなんでも気付かないなんてことあるかしら?
毎年、花を心待ちにして見ていたのに。
そして、5月も終わるころ、みるみる花は白くなっていきます。
これで気付かなかったはずはありません。
やっぱり、今年初めて花を咲かせたのです。