唐突に、まるでタイムスリップしたような匂い、感覚に出会う瞬間があります。
ある春の夕方、蕗を調理しようと台所にいました。
この間まで冬だったのに、いつの間にか日が延びて、気付いたら明るい西日が射し込み、
いっぱいに広がる蕗の匂いと、スジをとる自分の姿が、急に懐かしい日々に帰らせたのです。
むかし、よくこうして母と祖母のお手伝いをした、夕暮れ時。
もう、20年以上も前のことです。
突然、緑のむせ返るような青臭さが暖かい空気にのってきました。
「栗の木の匂い」です。
本当に栗の木なのか、確かめたこともありませんが、子供の頃、この匂い=栗の木と覚え、
この暑苦しい匂いが嫌いでした。
この青臭さが嫌いだったのに、今はなぜか懐かしく、そう悪くもないかな、と思うのですから不思議なものです。
美術館を閉めて、強羅駅まで坂を下って歩きます。
今は紫陽花が咲き、夕方の涼しい風とやわらかい光、どこかの家から晩ご飯の匂いと
花の甘い匂いと、サンダル履き。少し日が落ちると鈴虫の鳴き声。
わざと、この空気を思いっきり吸い込みながら心地良い感覚で頭のなかをいっぱいにします。
夏の雨の降り始めにはアスファルトと砂埃の匂い。
急ぎながらもこの冒険を楽しむランドセルの列は今も健在で、賑やかな声が自分とは無関係に通り過ぎていってしまい、おいてけぼりを食わされてしまうとき。
きっと人によって、その記憶の一点をつつかれる場所は違うのでしょうが、共通するものもあるように思います。
それがいつの記憶なのか、実際に経験している記憶なのか、人から聞いた記憶なのか、わからないことも多いのですから、どうなっているのでしょう。
光と匂いと音から出来ている記憶は、そのものを視覚で見たよりずっと強く、唐突にやってきます。
偶然の一致でくる懐かしさを集めておけたらいいのにな、と思うことがありますが、その瞬間はすぐに通り過ぎてしまうので、懐かしく思っている間にどこかに消えてしまうのですけど。
この夏、箱根ホテルでのイベント展覧会では、当館常設写真家の遠藤桂氏と児童文学作家の薫くみこさんと一緒に展覧会を開催します。
ものを作り続けるの多くは、子供の頃にみた何かを追い続け、そこに後押しされながら、生きているのでしょうか。
そして、それは、ものづくりに関わる人だけでなく、誰もが持っているのかもしれません。
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「あの日の風が吹いているから」薫くみこ×遠藤桂handred展
会場:箱根ホテル 1Fコンベンションホール(箱根町箱根65)
会期:2005年8月2日(火)-18日(木)
詳細はホームページをご覧下さい。http://www.hmop.com/kun_katsura2.html

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「あの日の風がふいているから」
薫くみこ×遠藤 桂 handred展ポスター
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